第九話“潜入”


あのとき、もっと精神的に大人だったらもっとどうにかなったのではないかと思う
考えても仕方のないこと
だが繰り返し考えてしまう
取り返しのつかないこと、もう戻れない道であること
でも繰り返し考えてしまう

「よくよく俺は潜入が好きみたいだな」
神威はそう自分を皮肉った
「神威!」
男の怒声が響く
「来たか、二梃木」
鋭い視線がその男を捉えた
「こうして実際に会うのは初めてだな」
「貴様、一体何をしているのかわかっているのか!?」
「ああ、ちゃんと理解しているさ。こうして軍にケンカを売ったって事を」
辺りを見まわすと神威の周りには兵士が2人横たわっていた
ともに死んではいない
気絶しているだけのようだ
さらに神威の通った軌跡には瓦礫の山が築かれていた
神威の姿も普段とは違っていた
左手には連射式の大型銃
胸脇には小型の銃を1丁ずつ携えるホルダーがある
だが銃は右に1丁あるのみだった
腰元には手榴弾が2個並んでいた
腰元のホルダーの空き具合からして、既に8個は使ってしまったようである
そして右手は無手だが、その存在感を表していた
「この基地はそれほど安い造りはしてなかったんだがな。
 貴様にかかれば大したことはなかったらしいな」
二梃木の言葉通り、この基地は凄まじく大規模だった
あちこちに戦闘機が無機質に並べられ、迎撃用の砲身が人工的な光を放っていた
しかしながら、これらの兵器はすべて防御用らしく、今回の戦争には関わっていない
このコスモステーション基地は指揮を取っているだけのようだった
神威はふいに思い出す、通信したときの会話を

「資源?」
「そうだ、資源だ」
「資源資源資源・・・。
 だがお前らのやり方ではダメだ。結局資源を食い潰すだけだ。
 『セカンド・アース』の資源では飽き足らず、他の星系の惑星へも手を伸ばす。
 そしてまた食い潰す。それの繰り返しだ。
 それに何の意味がある?延命を繰り返すだけで、いつかは潰れるだけだ」
「『セカンド・アース』じゃない。『終わりの星』だ」
「どっちだっていい!」
神威の言葉はもっともで、彼らのやり方によってこの星の資源はほぼ使い切られ、もうわずかな余命が残されているだけだった
だが、彼らは生き方を変えない
残りのわずかな資源すら使い切ろうとしていた
その先にあるのは長い沈黙だけだ
「それでも我々は続けなければいけない。それが我々『始まりの星』の民に残された唯一の生存への道だからな」
淡々と続ける二梃木
「他の道は?なぜそれを考えない?」
「なぜ考えなければならない?資源は使うためにあるのだ。
 我々は資源を有効に使うために選ばれたのだ。だから使う。それの何がおかしい?」
「有効?食い潰すことが有効だと言うのか?」
二梃木はうんざりした顔色を見せた
「・・・これ以上は話しても無駄だな」
そして通信は途絶した

「それが話に聞く『光の手』か。まさに悪魔の所業だな」
悪魔・・・突如放たれたその言葉に、一瞬神威の顔が曇った
「黙れ!」
神威の怒声が響く
「・・・神威?」
ふと我に返る神威
「・・・霞は?彼女はどこにいる!?」
「・・・」
「二梃木!」
神威が吼えた
その射抜くような視線に思わず二梃木は目を逸らした
ほどなく険悪な空気が漂った
その雰囲気を打ち破ったのは、二梃木だった
「彼女をどうする気だ?」
「無論連れて帰る」
「なぜだ?」
「直感だ。お前が何をやらかしているか想像するだけで怖い」
その言葉に二梃木は大声を出して笑い始めた
「何がおかしい!?」
「ははは・・・。いや、すまない。
 まさか君の口から怖いと言う言葉を聞けるとは思ってなかったんでね。
 私にはこの基地に1人で乗り込んで来た君の方がよっぽど怖いがね」
「いい加減にしろ、二梃木!彼女を使って一体何をやっているんだ?」
二梃木は先程とは打って変わって神妙な顔つきになった
そしてこう告げた
「いいだろう。彼女の元まで案内しよう」

案内された場所
そこには奇妙な機械に頭部をつなげられている少女がいた

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