第八話“開戦”


どれだけの人を殺しただろうか?
どれだけのメカを壊しただろうか?
それは結局死期を少し遅くするだけの結果にしかならなかった
何のためにあれだけのことをしたのだろう?
俺は一体何がしたかったのだろう?
何を望んでいたんだろう?

予想外に始まった戦争
しかしながら宇宙で始まった戦争はこの星の住民にはさほど影響を与えなかった
本当に戦争が起こっているのかと不思議に思うときさえあった
「ここまで平和ってことは、余程順調らしいな」
神威がため息混じりに口を開いた
「そのようですね。軍から発表された情報によると、戦局は圧倒的に有利に展開しているそうです」
「それは実際の戦闘でも?」
「はい。軍の交信を調べた限りでは、ほとんどの局面で勝利を収めているようです」
「へー、あそこはそんなに強かったんだねえ」
神威が皮肉の言葉をもらす
「ただ、気になることがあります。交信を見ると、兵士たちの言動が異常なんです」
「それはどういうことだ?」
リリスの奇妙な発言に思わず疑問を覚える
「戦争では、兵士はなんらかの恐怖心に縛られるのが普通です。
 それを指揮官などは士気を高めるなどして取り除く必要があります。
 恐怖に縛られた兵士では戦えませんから。
 しかし、彼らからにはその恐怖心が感じられません。
 まるで何かに操られているように淡々と仕事をこなしています」
「なるほど、よっぽどここの指揮官は有能なんだね」
「いえ、違います。指揮官は指示を出しているだけのようです。
 特別何かをしていると言う印象を見受けられません」
「・・・確かに妙と言えば妙かもしれないな」
神威はしばらく思案し
「霞はどうしてるかわかるか?」
リリスの顔色が曇り、言いにくそうに言葉を発した
「実は・・・、どうしているかまるでわからないのです」
その言葉に不安の顔色を浮かべる神威
「彼女が今何をしているのか、どうも軍のトップシークレット扱いのようでわかりません」
「全く?」
「はい。あまりに不自然な気がします。
 何かよくないことが起こっていなければいいんですが・・・」
リリスはそれっきり黙ってしまった
神威の不安はさらに増加していった

モニタ上には二梃木の姿が映し出されていた
「どうしたんだい、神威?」
二梃木が先に切り出した
「・・・霞はどうしてる?」
「あまりにストレートな質問だね」
二梃木が嘲笑混じりに答えた
「残念だけど、今は教えることが出来ない。時期が時期なんでね」
その言葉に神威が食いつく
「彼女に何をさせているんだ?彼女を戦争に駆り出しているのか?」
神威の怒声が艦の中に響く
なおも続く
「彼女をお前に渡してから間髪入れずに宣戦布告。
 あまりに手際がいい。
 一体何が起こっているんだ?
 そもそもこの戦争は何のために起こっているんだ?」
二梃木はしばらく神威が落ち着くのを待った
「戦争の原因は君も知っているじゃないか?かの星の住人がわが星の輸送船を落としたからさ」

輸送船撃墜事件
この星ではそう呼ばれているが、なんてことはないただの事故だ
あちらの輸送船とこちらの輸送船がたまたま宇宙空間で激突した
しかしあちらは無事、こちらは宇宙の藻屑
確かにこの星の住民の感情は反『セカンド・アース』へと傾いた
わざとぶつかって落としたと言う噂さえ立った
宇宙空間において輸送船同士がぶつかるなど、天文学的に確率は低い
だが、すでに事件からは2年が過ぎている
賠償も成立している
そんな終わった事件を根拠に戦争につながるとは飛躍し過ぎである

「本当の理由は何だ?」
「・・・」
「二梃木!」
「・・・」
「・・・それとも二梃木軍事総司令官殿と言った方がいいか?
 裏でこの戦争を操作しているだけの臆病者よ!」
神威の言葉に二梃木が鋭く反応した
「仕方ないな、君にだけ教えよう」
そう言うと、二梃木はゆっくりと語り始めた

「戦争のきっかけは何でもよかったのさ。
 この星を支配する沙藤(さとう)元首は『終わりの星』が単純に欲しかっただけだ。
 元首の中をうごめいているのは圧倒的な支配欲だ。
 その衝動を止められる者は誰もいなかった。
 いや、違うか。私も賛同したのだ、元首の意見に。
 そしてそれに促される形で上層部の全員の意見が一致した。
 みな単純にあの星が欲しかった。あの資源の宝庫を、あの宝の山を」

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