第四話“月での生活” 月 この惑星の衛星のひとつである 人々はここを宇宙につながる拠点とし、人が住める基地を建造していた だが、一般人にはそうたやすく惑星との往来はできなかった 「さあ、着きましたよ」 リリスの明るい声が響く 「ひとまず飯にでもするか?」 神威と霞は船から居住区へと入って行った 「あの、リリスさんは置いてきていいんですか?」 「ん?・・・ああ、あいつはあそこの方が落ち着くんだよ」 「そうですか」 腑に落ちない顔をしながら霞は納得した 神威は昨夜のリリスとの会話を反芻していた 「リリス、彼女は一体・・・?」 「おそらくは何かの実験の被検体だと思われます。ただ何の実験かはわかりかねますね」 「そうか・・・」 しばらく沈黙が続いた 「二梃木はどういう目的でこの依頼をしてきたんだ?」 「さあ、どうでしょう?ただ、この莫大な報酬からして今までの依頼とはかなり異質な気はします」 「だな。用心に越したことはないか」 「月に行くのは正解だと思います。あそこに手を出すような組織はよっぽどのことがない限りないですから」 「そうだな」 それから神威は思案を巡らせていた 「・・・二梃木の目的。彼女の存在。あの屋敷・・・」 食事をすませた2人 「これからどうなさるんですか?」 「とりあえず服を買う。それと美容院。その辺すべてコーディネートしてくれる店を知ってるから。いつまでもその格好じゃいられないだろう?」 霞は未だ神威の服を着ていた それに船でシャワーを浴びたとは言え、年頃の女性にしては・・・という雰囲気だった 「特にこの格好で問題ないと思いますけど」 「君が問題なくても俺には問題ありなの!」 2人は店に入った この居住区は一面がシールドで覆われており、そこに大気と同条件の空気が注入されている 空気が充填されることで、人の居住が可能になっているわけだ ここには種類は少ないが一通りの店は揃っており、ここでの生活に支障はない ただ研究目的と言う色合いが強く、娯楽と呼べるものはあまりないが 月の重力は惑星の1/6ほどしかないが、この居住区には重力コントロール装置によって約0.9倍の重力場を形成している これは惑星に帰還するときのリスクを軽減させようと言う試みなのだ 「このような感じでいかがでしょうか?」 店員が神威に声をかけた 一瞬神威は言葉を失った そこには神々しいまでの美女がたたずんでいたからだ 「私はさっきの服の方がいいと思うんですけど。これなんかひらひらしていて着ている気がしません。顔も何か塗られたけど」 霞はあまりうれしそうでなかった 今までの生活では服を着ていることの方が非日常なのだろう しばらくぼーっと眺めていた神威だったが、ふと我に返った 「あ、いや、とりあえずそれはそれで似合っているよ。と言うか・・・うん、凄く似合ってる」 「顔を赤くしてどうかなさったんですか?」 見ると神威は顔を赤く染めていた 「な、なんでもないよ。・・・とりあえず宿に行くぞ」 神威は足早にその場を去った 「あ、待って下さい」 2人はそれから1ヶ月ほど月での生活を送った それはそれは平穏な日々だった だが逆に言えば、その生活はそのわずか1ヶ月で終わりを告げた