第二十八話“暴走するこころ ディスパ対ディスパレイド”


「ダメです・・・“ディスパレイド”、完全に機能を停止しました」
オペレーターの1人が力ない言葉を口にした
ジブル基地を落胆の色が支配する
「そうか。・・・ふっ、所詮そんなものか。だがこれで終わったわけではない。
 今の“X”なら“ディスパ”でも倒せるはずだ。・・・すぐにディスパを出撃させろ!」
二梃木が声を荒げる
慌てて準備に取り掛かる基地の面々

「これは?」
格納庫で1人のパイロットが疑問の声を投げかけた
「飛行補助ユニットです。大気圏内でのディスパの飛行を可能にします。短時間しか飛べませんけどね」
「こんなものがあったのか!?」
「本当は『終わりの星』の拠点戦略用に開発したものだったんですけどね。・・・情勢が変わった、としか言いようがないでしょう」
メカニックがそう告げた
パイロットたちからは驚きの声が漏れる
『終わりの星』攻略はここまで本気だったのかと
だが、今は『終わりの星』との戦争以前に、今この星に迫っている脅威を取り除かなくてはならない
Xの排除
それが今の第一の目標だった
「ディスパ各機、出撃します」
50もの機体が、基地のカタパルトから次々に飛び立った

基地は目的地からそう離れていない
だからこそ、このジブル基地が戦略拠点として選ばれたわけだ
飛行補助ユニットは機体輸送可能な飛行機と違い、それほど高度は高くない
低空飛行で荒れ果てた大地に近づく
眼下には、蠢くXの群れが広がっていた
「なんて数だ」
「倒せるのか?」
その中心には、自分たちのオリジナルのなれの果てが存在していた
「・・・むごいな」
「ああなりたくなければ、勝って生き残るしかない」
今やるべきことを頭に叩き込んだパイロットたちは、眼下を見据える
半数は上空から、背面ランチャーと両手のライフルを構える
標的をロックオンさせ、一斉に照射
その間隙を縫って、残り半数が急降下で大地に降り立つ
両手からは光が放たれる
光は機体全体を覆い、光の弾頭と化す
超低空飛行で飛び、凄まじいスピードでXの群れの中に突っ込む
飛行補助ユニットが功を奏し、『光の手』が最大限の強さを発揮しているようだ
グギャアアアーーー
ディスパにぶち当たったXは、悲鳴をあげながらその身を削られて行く
放射状に並んでいたXの陣形がディスパによってズタズタにされる
「もろい!これならいけるぞ!」
自らの強さに歓喜するパイロットたち
予想以上の強さを誇っていることに、一様に感動していた
それほどまでにディスパのポテンシャルは高かった
休むことなく次々とXを鉄屑とする
50機の戦力の前に、無数に存在するXは無力にさえ思えた
それほど圧倒しているように見えたのだ
だが、上空にいるディスパのパイロットたちは違った
確かに自分たちが戦局を有利に進めている
しかし、あれはいったいなんだ?
己の目を疑うしかなかった
眼下の異変に気がついているのは彼らだけだった
「ばかな、Xが・・・」
「なんだ、あれは?」
「全く、何がどうなっているんだ、いったい・・・」
上空のパイロットたちはみなその光景が何を意味しているのか、理解できていない
辺りに星の数ほどいた大量のXは、あるものを中心とした一定の範囲で骸と化している
あれほどの数がこのわずかな刻の中で、だ
おびただしい数の残骸が大地を覆っている
それを実行したのはディスパたちではない
地上にいるディスパは次々とXを撃破しているが、まだその残骸地点までは到達できていない
これほど圧倒的なディスパの戦力でも、Xをそれだけ大量に葬るには時間がかかるのだ
それにもかかわらず、この一瞬でこれだけの墓標が生まれた
そして、その中心部
この行為を実行に移したであろう存在が、そこにいた
「あれはいったい・・・なんだ!?」
蠢く物体
その姿形は異形
ロボットという無機的なものよりもむしろ有機的なものにさえ感じた
Xが融合した姿とも考えられる
だがXとも似て非なる部分があった
「あの場所にいたものは・・・、まさか!?」

ジブル基地でもその異形の物体は確認されていた
そしてその正体にも
「これを見て下さい。確かにユニットからの反応が復活しました。ただ異常な数値を示してはいます。そしてその反応はあれから出ているのです」
「バカな・・・。じゃあ、あの怪物は、まさか・・・」
二梃木が固唾を呑む
「おそらく・・・ディスパレイドです」
「くっ!」
二梃木が唇を噛んだ
「あれが、あれがディスパレイドだと言うのか!?なぜあんな姿になっているのだ?一体何が起きているんだ!?」
余りの出来事に二梃木は狼狽するしかなかった

中心に悠然とそびえる異形のロボット
確かにディスパレイドが先ほど敗れ去った地点ではあるが、それにしても姿が違いすぎる
形状はディスパよりXに近いかもしれない
そう思わせるほど、容姿が変貌していた
「ん?・・・なんだ、これは!?」
地上にいたディスパが続々とXの壁を突破した
そして、Xの大量の残骸とその怪物の存在を初めて認識する
「いったい、・・・いったいこれはなんだ!?」
全長はディスパの2倍ほどにもなる
本来ここまでディスパとディスパレイドに大きさの差はない
骨格まで変化しているのか
その怪物が、行動を開始する
バサァッ
まるで羽を広げるかのように、背中に針状のものが複数展開する
それはXのあの脚に酷似していた
「まさか、ディスパレイドとXが・・・融合している!?」
鞭のようにしなった針のうちの1本が1体のディスパに向かって高速で動く
慌てて対応しようとするがまるで間に合っていない
グシャッ
針は頭部を完全に壊滅させた
残りの針が一斉に動き出す
目にも止まらぬ速さがディスパ各機を襲う
だが、ディスパも一方的にやられているわけではない
両手を光らせ、襲い掛かる針をいなす
急造パイロットたちが思いのほか健闘していた
ある機体が針をかわしながら前進する
全身にまとった光は、針のスピードを凌駕し始める
瞬く間にディスパレイドとの距離が詰まる
激突
ボシュッ

「衛星軌道上で静止していた例の一団が降下を開始しました」
「このタイミングで降下してくると言うことは、やはり・・・」
「はい、頭上に降りて来ると思われます」
「いったいどういうつもりなんだ?・・・こう次々と。今日という日はなんという日なのだ!」
「!?・・・総司令官!それはいったいどうしたんですか!?か、体が、体から緑色の光が・・・」
「・・・フッ、どうかしたのか?」
「あ、ああ、ああああああーーーー!」

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