第二十五話“神威 3”


一発の銃声
その乾いた音が、この双子を永遠にわかつことになる
その音の発信源は重火器ではない
ただの短銃である
長距離からの射撃のため、殺傷能力はあまりに低い
致命傷となるには相当に確率の低い話である
だが事実、それは起きてしまった
銃弾は迷うことなく心の臓を貫いた

「しっかりしろ」
「どうやらここまでみたいだ。ここから先は1人で行ってくれ」
「そんなこと、そんなことできるものか!」
「行くんだ!お前ならそれができる」
一方の少年が倒れていた他方の少年を見やる
その少年の目には、涙が溢れていた
「なぜだ!?なぜあれほどまでに簡単に『人』を殺せていたお前が僕を捨てられない?」
「兄貴にはわからないさ。僕の気持ちは」
「煉羅・・・」
「兄貴があいつらを守ろうとしたように、僕は兄貴を守りたかった。ただそれだけだ。
 『能力者』とか『人』とか、そんな違い、僕にはどうでもよかったんだ」
煉羅が倒れていた神羅を担ぐ
「一緒に行くんだ、兄貴」
「れ・・・ん・・・ら・・・」

―――『神のほこら』
「たどり・・・着いた・・・よ・・・、ほら・・・兄貴・・・」
同じ顔を持った2人の少年は、その場に崩れ落ちた


「・・・う・・・ん」
「お目覚めですか?マスター」
ベッドに寝ていた少年はおもむろに体を起こした
頭がふらつく
貧血だ
「まだ体調は万全ではありません。もう少し横になっていて下さい」
ここで少年は奇妙なことに気がついた
「なんだ!?どこから声が聞こえる?」
四方から声が響いている
姿なき声にとまどう煉羅
「申し遅れました。私はこの宇宙船リリス=クレサードのブレーンです」
「宇宙船!?『神のほこら』のことか?」
「はい、その通りです。私はそのメインコンピューターです。
 ご希望ならば、姿をお見せしましょうか?」
そう声が響くと、煉羅の前に1人の女性の姿が現れた
「あれ?これでは少し年齢が不釣合いですね」
そう言うと、女性は少女の姿に変貌した
ちょうど煉羅と同じくらいの年齢だろうか
「うわっ!いったい何をしたんだ!?」
余りの出来事に驚きの声を漏らす
「はじめまして、マスター。この姿は立体映像です」
「マスター!?・・・僕のことを言っているのか?」
少女はその問いに、満面の笑顔で答えた
「そうです。この船はマスターを主としています」
「なぜだ!?」
「そうプログラムされているからです」
そのとき、煉羅の脳裏に漢羅の顔がよぎった
ふと、違和感に気づく
いるはずのものがいなかった
「・・・兄貴!?兄貴はどうした?」
その問いにばつの悪い表情を見せる少女
「兄貴は・・・死んだんだな?」
少女は首を縦に振った
「そうか。・・・兄貴の遺体はどこにある?」
その言葉を聞き、一層顔が険しくなる少女
明らかに何かを隠していた
「・・・どうしても、彼を見ますか?」
煉羅は大きくうなずいた

案内された場所
そこに存在するは1体のミイラ
全身の血を抜かれ、皮と骨だけになったもう1人の自分がいた
「なっ!そ、そんな・・・!?これが、これが兄貴だと言うのか?」
「はい・・・。ここにたどり着いたときにはすでに絶命していました。
 またマスターの出血もかなりひどく、そのままの状態ではとても助かりませんでした。
 船内には医療設備はあっても、輸血可能な血液が存在しないのです。
 そこで、このような・・・苦肉の策を講じました」
「兄貴の、兄貴の血を・・・僕に移したって言うのか?」
「はい」
煉羅の全身が打ち震える
それは悲しみからなのか、恐怖からなのか
「ふざけるなっ!そんな・・・兄貴を・・・くっ・・・うわあああああああーーー」
右手を振り上げ、力任せに寝ていたベッドを叩き壊した
そのまま少女に殴りかかる
だが拳は少女の体を通過した
体調が完全に回復していないため、そのまま床に倒れ込む
「兄貴を、僕は兄貴を守りたかっただけだ。
 なのに、なのにこんなことになるなんて、そんなことって・・・」
煉羅の目からは大粒の涙が溢れていた
雫は煉羅の右手に降り注いだ
そのとき、煉羅の右手が淡い光で包まれた
「こ、これは!?」
煉羅が右手に力を込めると、より一層右手の光が増した
「これは、この光は兄貴の能力。兄貴は、兄貴は僕の中で生きているのか!?」
涙をぬぐい、立ち上がる煉羅
その目にはもう迷いはない
決意の光が見えた

「兄貴、僕は生きるよ。兄貴の分まで」

inserted by FC2 system