第二十三話“神威 1”


「神羅(しんら)!煉羅(れんら)!なぜだ!?なぜ『人』に与する!?」
1人の男が声を荒げる
長身で細身の男は、唇の端から血を垂らしていた
「炎羅(えんら)、『能力者』がすべてじゃないんだ。『人』を助け、『人』と協力し、『人』と共存して行く道もあるはずだ」
少年が口を開く
見ればまだ背丈も小さく、顔も幼い
それと同じ容姿を持つ者が隣に立っていた
「何を寝ぼけたことを言っている!・・・煉羅!お前もそうだと言うのか!?」
炎羅は呼吸も荒く、肩で息をしていた
「僕は兄貴が言っていることがすべて正しいとは思っていない。だけど、僕たちは双子だから。炎羅でなく、兄貴に付くよ」
もう1人の少年はうっすらと笑みを浮かべた
それが余計に炎羅を激怒させた
「ならばもう何も言うまい。我ら五極神もここで終わりだ。
 だが、神羅、煉羅。貴様ら2人をこのまま許すわけにはいかない。
 後ろにいるクズともども、消しズミにしてくれる!!!それが俺のせめてもの情けだ!」
そう言い放つと、炎羅の全身は炎に包まれた
炎は天に昇る
煌々と燃え盛る炎は徐々に鳥の形へと変貌を遂げた
「不死鳥か」
炎が舞い上がると、一気に空を駆け巡った
2人を越え、後ろにいた人々を焼き尽くす
羽織っていた鎧ごと
「やめろおおお!」
神羅の右手が光る
神羅が拳を振るうと、光が右手から放たれる
不死鳥に命中
だが影響はない
2人は不死鳥の口から撃たれた火球をかわす
「煉羅!」「兄貴!」
2人は背中を合わせ、構える
神羅は右手を、煉羅は左手を突き出す
神羅の右手を白い光が、煉羅の左手を黒い光が覆った
「はあああ!」「いくぞ!」
白い光と黒い光は混じり、竜巻のように放射される
白と黒の竜巻は不死鳥を捉えた
「ぐはあっ!」
みるみるうちに不死鳥の炎は消し飛ばされる
最後に残ったのは、血まみれの炎羅だった
「俺が予言してやる!いつか貴様らは『人』に裏切られる。
 貴様らがいくら奴らを信用したところで、奴らは貴様らを信用しない。
 奴らは心が弱いクズだからな」
「そう、彼らは弱いんだ。だから守らねばならないんだ!」
「これからは強い者だけが生き残れる時代だ。
 そんな甘いことを言っていると、足元を刈られるのは貴様らだぞ!」
炎羅は吐血し、その場に崩れ落ちた
「・・・兄貴、本当にこれでよかったのか?」

―――数ヶ月後
「いっけぇぇえええ!」
煉羅の左手が唸る
次々に『能力者』を撃破して行く
神羅も同様に右手を輝かせる
だが、両者には決定的な差があった
煉羅と対峙した者は誰もが絶命
神羅と対峙した者はまだ息があった
「なんで殺さないんだ?」
「殺す必要性がどこにある?」
「いい加減にしろ!兄貴は殺したくないから殺さないんじゃない。
 自分が殺すことで悪になりたくないから殺さないだけだ!自分がかわいいだけだ!」
「・・・そうかもしれないな」
辺り一面は地獄絵と化していた
「兄貴!この戦いを起こしたのは兄貴だ。兄貴がそんなんでどうする?
 見ろ!まともに戦えているのは僕たちだけだ」
「だが・・・だが僕たちは、己の信念に従って行動し、突き進むしかないんだ!」
その場に立っているのは2人だけだった

「また祈祷か」
煉羅が呟く
「毎日毎日、よく飽きないものだな」
「そう言うな、煉羅」
神羅が『人』をフォローする
「あいつらは宗教に頼る。生前も死後も幸福でありたいと願う、なんと欲深い者たちなのか」
「それは彼らが弱いからさ。弱いから心の拠り所がほしいのさ。だから助けなければならない」
「・・・兄貴はあいつらを甘やかし過ぎていると思う」

―――ドサッ!
「これは?」
「これはガトリングガン、これはサブマシンガン、これはロケットランチャー、これは・・・」
黒い布で全身を覆われた男が説明する
「『能力者』に対抗できる武器だ。これをお前らにやろう」
「な、なぜだ?」
「このままではジリ貧だ。お前ら『人』はいずれ『能力者』に駆逐される運命。
 そうならないように手を貸してやろうと言うのだ」
「だが、我々には神羅がいる!煉羅がいる!神の子たちがいるのだ!」
「そうだ、そうだ!」
辺り一帯から大合唱が起きる
「彼らは神の子『フェンディル』などではない。悪魔の子『ディスパレイド』だ」
「な、なんだと!?」
ざわめきがその場を支配する
「その証拠に、彼らによってこの終わりのない戦いが始まったのではないか!
 彼らがいない戦いはすべて敗走しているではないか!
 10に満たないその小さな体で、次々と虐殺を楽しんでいるではないか!
 彼らこそ、お前ら『人』を滅亡へと追いやる張本人。
 彼らがお前らを駆逐するのだ!」
「ば、ばかな・・・」
「殺せ!お前らの手であの悪魔の子たちを殺すのだ!
 そうすれば『人』は救われる。神に召される」

「コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!・・・」
「神羅と煉羅を殺せーーー!!!」
「コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!・・・」
「悪魔の子には死を!!!」
「コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!・・・」

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