第二十一話“もうひとつのディスパレイド”


「博士!よかったのですか!」
若い研究員が声を上げた
「あの状況では、どうすることもできなかっただろう」
中年の男は淡々とそう答えた
辺りには資料が散らばっていた
その1枚にはこう記されていた


『ディスパレイド計画』

Type R
数々の失敗を乗り越え、ようやくプロトタイプとしてロールアウト
本プロジェクトの雛型となる
操縦系統は、操縦者の動きを直接トレースするというシンプルなもの
これにより万人が操縦を可能となるはずである
だがまだ癖が強く、操縦者は限られる
右手には、ある協力者より得た情報を元に完成させた新技術『光の手』を装備
データ収集のためにその協力者に提供

Type L
『光の手』を左手に装備
『光の手』に耐えられる特殊装甲を掌だけでなく全身に施す
この結果、単体での大気圏突入が可能になる
またこの機体にのみ、オーバーテクノロジーを試験的に導入
だがこれにより事故が多発
以後、稼動実験は凍結

Type LR
『光の手』を両掌に装備
それに伴って装甲をより強度の高いものに変更
操縦系も洗練され、誰にでも扱える機体に近づいていると思われる
ディスパの大量生産化に伴って、その部品となるべく解体された

ディスパ
Type LRの量産型
Type LRより一周り小さくしているが、その他の機能は同等
近距離主体のこれまでのシリーズに対し、中遠距離でも戦闘が可能
そのために手持ち用のライフルと背面にランチャーを装備
ライフルは掌で『光の手』と直結し、『光の手』を短距離ながら前方に射出できる
また背面のランチャーは内部エンジンのエネルギーを圧縮したビームを長距離に渡って放つことが可能
これにより、シリーズ中最強の機体となる


「神威・・・」
中年の男は先ほどの出来事を反芻していた

―――先刻
「ぐはっ」
中年の男は空中に浮いていた
首には神威の左手が絡み付いていた
「博士。こちらとしては、このままあなたを絞め殺してしまってもかまわないんだよ?」
神威が左手に力を込める
さらに絞まる
「あなたが出さなくても“Type L”はもらって行く。リリスにやらせればものの数分でプロテクトは外せる。
 ただ俺は無益な殺生はしたくない。大人しく出した方が利口と言うものだ」
自分のさじ加減ひとつで人を殺せる状況であっても、神威の目は冷淡なままだ
「わ、わかっ・・・た」
敷神博士は今にも消え入りそうな声で答えた

「これは?」
「“ディスパ”用のライフルだ。Type L では扱いにくいかもしれんが少しは役に立つだろう」
「・・・気前がいいんだな」
神威は悪振れたままだ
「・・・神威、本当に Type L を使うのか?」
博士は訴える
「あれは悪魔のロボットだ。乗った者は全員気が触れて死んじまった。あれは・・・あれは人が扱えるシロモノじゃない」
博士は震えながら神威に懇願する
「博士、全員じゃない。俺は生き残ったぜ」
「神威!」


―――「神威、お前は本当にそれでいいのか?神威よ・・・」
「博士・・・」


「リリス、お前はここに残ってろ」
「マスター、本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない。・・・計算では奴の頭上に降りるのか?」
「はい」
「わかった。・・・今行くからな、霞!」

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