第二十話“虫の日”


「もう・・・これしか・・・ない!!!」
「神威・・・ごめん・・・ごめんなさい・・・ごめ・・・」

そこで録音されていた音声は途切れた
「音声の記録はここまでです。・・・続いて、映像の記録を見ますか?」
「・・・ああ、そうしてくれ」

モニタには2つの巨体が対峙していた
一方は人型巨大ロボット、“ディスパレイド”
そしてもう一方は・・・虫型のメカ
軍はそのメカに対し、存在も目的も何もかもが謎である意味を込め、“X”とした
そのフォルムから、Xはメカにも有機体にも見えた
Xの周りには無数の機械の骸が広がっている
その余りの数が、Xの脅威さを物語っていた
Xの容姿は虫でも幼虫に類するものと見られる
その巨体が広範囲に渡って地面に横たわっていた
全長ではディスパレイドの優に3倍を超え、全身から圧倒的な存在感を放っていた

ふいにXがむくっと体を起こす
腹があらわになり、外縁には無数の脚がうごめいている
その大きさの差は明らかで、ディスパレイドを完全に見下ろす格好になった
次の瞬間、脚の1本が急激な勢いで伸びた
地面に突き刺さる
その形状からは予想だにできないほど伸長した
大地を簡単に突き破ったことから、かなりのスピードと硬度を保っているように見える
別の2本がさらに動き出す
これもなんとかかわすディスパレイド
この3本だけが次々と攻撃し、地面に突き刺さっていた
まだ無数の脚が残っているというのに、この3本をかわすだけでやっとだ
余裕もなく攻撃をかわしているだけの状態
槍とも矢とも呼べそうなその脚は、徐々にディスパレイドを追い詰める
危機的状況
追い討ちをかけるように、Xは口から粘着性の液を放つ
これをもろにかぶってしまった
その場に立ち往生する
脚が・・・迫る!

ガガッ!ガッ!

頭部は壊滅状態
左腕はもげた
腹部を貫通した脚は、コクピットのすぐ脇を通過していた

ディスパレイドの右手が光る

腹に刺さっていた脚に右手が触れる
溶け出す脚
光がディスパレイドを包む
動きを妨げていた粘着液は蒸発
光がXに向かって動き出す
一気に20本もの脚がディスパレイドを襲う
ディスパレイドを包む光はその攻撃を物ともせずにひた進む
脚が光に触れると、その部分だけが削り取られる
猛烈なスピードの光は、攻撃して来た脚を消滅させ続ける
ついにはXの最下部と激突!
光が通過した空間には、何も残っていなかった
足元を失ったXはその場で豪快に崩れ落ちた

モニタ上にはディスパレイドがいない
カメラが余りのスピードに最後までその姿を捉え切れなかったようだ
そして、次にモニタ上に映し出されたときには、ディスパレイドは見るも無残な姿をしていた
その全身には無数の脚が突き刺さっていた
Xはその場で倒れたまま
だが、残っていた脚が一斉にディスパレイドに向かって伸びていた
Xは徐々に脚を手繰り寄せる
巨体とディスパレイドの距離が詰まる

刹那、辺り一面を大爆発が包んだ

―――グシャッ!!!

「マスター!?」
神威の前に置かれていた椅子が吹き飛んだ
「いつも・・・こうなのか」
「・・・」
「いつも俺は・・・誰も守れない。誰も救えない」
「マスター・・・」
「なんで、俺は・・・俺は何もできないんだ!」
ベシャッ!!!
椅子が再び蹴られる
既にその原型を留めていなかった
怒りを隠すことなく表に出す神威
今の神威の表情には怒りと悲しみの顔が入り混じっている
「でも!・・・でもマスターは、ずっと眠っていたのですから・・・」
「現状はどうなってるんだ?」
「え!?」
「現状はどうなってるのかと聞いてるんだ!」
「あ、は、はい」
急な質問に慌てるリリス
「ディスパレイドの自爆によってXは破壊されたと思われました。
 しかしそれから2日後にその場にあったXの残骸が割れ、中から新しいメカが飛び出しました。
 そう、まるで蛹から成虫が羽化するかのように」
それを聞いて神威はテーブルに拳を振り下ろした
霞が命を賭してしたことは何だったのか
「その後その成虫となったX、軍はそれを“新X”と名付けました、
 その新Xは活動を停止し、その場に鎮座したままになってしまいました。
 軍は新Xを調べようとしたのですが、調査隊の話では、
 新Xの周りに結界のような見えない壁が存在し、新Xには近づくことさえできなかったらしいです。
 長距離ミサイルによる砲撃も試みましたが、その結界は崩せなかったそうです。
 現在、軍は“ディスパ”による攻撃を検討しているらしいのですが、慎重派が足枷になっているようで、なかなか攻撃には移れないようです」
その話を聞いて、しばらく神威は考え込んだ
そして1つの結論を導いた
そのときの神威の表情は、今まで見せたことがない、恐ろしいまでに冷淡だった

「敷神博士のコスモステーションへ向かう。博士には“Type L”の準備を打診してくれ」

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