第二話“脱出”


もしあのとき助けなければ
そう何度も思った
何度も何度も
後悔は今も波のように押し寄せている

神威の腕時計が光った
通信が入ったようだ
「マスター、どうですか?」
女の子の声が聞こえた
「大丈夫だ、救出した」
女の子は安堵の声を漏らした
が、神威は続けた
「だが、かなり衰弱している。このまま二人一緒に脱出するのは厳しい。リリス、外から援護してくれないか?」
「わかりました。マスターの現在地はポイントα-3ですね?ポイントγ-1に陽動砲撃します」
リリスと呼ばれた女の子ははっきりとした口調で答えた
少女は神威が着ていた上着を纏っていた
見た目かなり衰弱が激しく、神威の支えなしでは歩けないほどだった
「すまないが、こっちもあんまり余裕がないんでね。一気に行かせてもらうよ」
そう神威が言うと、少女を抱きかかえ、通路を駆け抜けた
だが・・・

「いたぞ!!!」
声が先か銃声が先か、辺り一面に銃の乾いた音が鳴り響いた
神威は少女を抱えつつ通路の脇に飛び込んだ
一息つけるかと思った矢先、その通路の反対側からも銃声が鳴った
敵が手にしている銃は連射式の大型銃
神威も手元にある小型の銃で応戦するが、火器の差に加え多勢に無勢
既に敵は仕留めたと思い、その顔には余裕の表情さえ浮かべていた

ドォォォーーーン!!!
辺り一面に響く地響き
リリスの砲撃だ
着弾点ははるか遠方だが、その衝撃がフロア一帯に轟いた
ここぞとばかりに神威は飛び出した
狙うは人数の少ない方
神威は銃で敵の手元を正確に捉える
そこにいた3人全ての銃を体から離し、神威は脇を悠々と走り抜けた
「追えぇぇぇーーー!!!」
見えなくなった神威に対し、声は空しく響いた

神威が扉を蹴破り、外へ出た
「もう逃げ道はないぞ!」
拡声された声が聞こえたとき、暗闇の中でも完全に包囲されていることがすぐにわかった
言葉の通り、そこには逃げ道はない
どうする?
そのとき辺り一面を激しく疾走する風が襲った
上空に見えるのは一隻の飛行船
「リリス!」
神威が叫ぶと、一筋の光が神威と霞を包んだ
一瞬にして神威たちは船へとその身を移した
「馬鹿な!?」
無情に響く声をよそに、船はその場を後にした

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