第十九話“霞”


「おお!ここまで数値が跳ね上がるとは!?」
「こちらの数値も異常です!今までの被検体とは比べものになりません!」
歓声があふれる研究所内
そこでは大型の機械が複数鎮座していた
その中心には、1人の少女の姿があった
「X206は今までにないタイプだ。大事に扱え」
「はっ!了解しました」
何の分析をしているのか一切不明だが、そこから出力されたデータを見て、研究者たちは歓喜に沸いていた
ただ、その中心となっている少女を除いて
少女は再び元の部屋に戻された
何もない無機質な壁が支配する空間
ここで寝食を繰り返している彼女にとっても、そこは居心地のよい空間とは程遠かった

今日もまたこの日が来た
彼女にとってもっとも苦痛な日
週に1回必ず訪れる日
被害者は実験用の小動物
この実験を始めた頃は手のひらに収まるほどの小さい動物ばかりだったのに、最近は徐々にその大きさを増していた
今日の動物は少女の半分程度の大きさがあった
「では始めるぞ!」
ある研究員の声が合図となった
少女は、頭に被せられた機械に力を込める
自分でもどうやって出しているのかわからない、理解不能な力だ
動物は隔離された空間で先ほどまで暴れていた
だが、力が機械を通してその空間に伝わると、途端に動物は大人しくなった
まるで蛇に睨まれた蛙のように
別の研究員が彼女に命じる
彼女がその通りにすると、動物は歩行を始める
続いて走り始める
暴れていたときとは異なり、規則正しい走行だ
今度はその動物にとって天敵の虫が閉鎖された空間に放たれた
小さいが猛烈な毒を持っており、刺されると瞬くうちにその動物は死滅する
野生のものならば、決して近づこうとはしない
お互いの生活圏は侵さない、暗黙のルールが存在する
だがこのとき、その動物は恐怖を感じることもなく虫に接近した
当然虫は敵に対し容赦はしない
近づいてきた動物に飛びかかり、刺した
動物は一瞬にして動かなくなるはずだが、それを無視して虫を前足で払う
地面に落ちた虫に向かって勢いよく前足が振り下ろされた
潰れた
そしてしばらく動きまわった後、動物は倒れた
「すばらしい!精神を支配していれば肉体が動かなくともある程度動きまわれるのか」
「増幅器の調子もいいようだ。伝達器も申し分ない。
 動物実験はもう十分だろう。あとは人体実験だけだ。
 これが完成すれば軍にすら立ち向かえる最強の兵士が完成するぞ」
再び熱気が研究所内を包んだ
やはり少女はその輪の中には入っていなかった

少女はここで繰り返される実験が当たり前のことになりすぎていた
いくら動物が死のうとも、もう何も思わなかった
心が何かを感じることを拒絶していた
それでも人を対象にした実験を行ったあの日、彼女の胸に響くものがあった
それは彼女の中ではすでに失われた感情だったのかもしれない

そして彼女が解放された運命の日
彼女の中で失ったはずの感情
檻から解放されると同時に、それが呼び起こされたのかもしれない
それは魂の叫びにも似た感覚だった

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