第十八話“大気圏突入”


船内に衝撃が走った
二梃木が何事かと確認を取らせる
危険は去ったと思った矢先の出来事だった
まだ攻撃は終わっていないのか?
宇宙船の外を確認すると、1体のロボットが船にしがみついていた
「何をするつもりだ?神威!」
声を荒げる二梃木
すでに4隻の船が撃沈されている
この上何をしようというのか?
だが通信のモニタに映し出された姿は意外なものだった
「・・・X206だと!?」
そこに映し出されたのは1人の少女の姿だった
すべてを察したかのように二梃木は笑みをこぼした
「・・・くくく、そうか。さすがにあの傷ではそうそう簡単に復活できるものではない、か。
 まさか君が操縦していたとはね。
 確かに“ディスパレイド”の操縦系統はそう難しいものではないが、それにしても驚きだよ」
まるで自分に納得させるかのように言葉を紡ぐ
「・・・で、君は何をしようとしているんだ?」
至極真っ当な疑問をそのまま霞にぶつける二梃木
「・・・このまま私を共に地上に降下させて下さい」
「!?」
その言葉に二梃木は驚きを隠さず、そのまま少女に聞き返す
「何を言っているのだ!?」
「私が・・・私が、地上のあれをなんとかします」
それを聞いた二梃木は失笑するしかなかった
「ふん、何を言い出すかと思えば。そんな機体で何ができる?
 あれを倒せると言うのか?
 第一、ディスパレイドは大気圏に突入できない。
 それでどうやって地上に降り立つと言うのだ?」
二梃木がそう思うのも無理はない
ディスパレイドは大気圏突入など想定して作られていない
カタログスペックでは、機体強度が大気圏突入時の高熱に耐えられないのだ
「光の結界を・・・光の結界を展開しながら突入すれば・・・」
「バカを言うな!」
二梃木が霞の案を即座に否定する
「それで機体強度が保てたとしても、コックピット内は灼熱地獄だ。
 例え機体が生きていたとしても、君は死ぬぞ?」
そんな二梃木の刺すような剣幕にもひるまない霞
だが自分の考えがあまりに安易であったことにはショックを受けたようだ
しかし次に二梃木から出た言葉にはもっとも驚愕させられた
「・・・ハッチを開けろ」
「・・・え!?今なんと?」
あまりのことに部下が狼狽する
「ハッチを開けて、ディスパレイドを収容するんだ」
「なぜです!?あの機体は我が艦隊を壊滅状態に!」
部下もこの言葉に納得が行かない
4隻の船を沈められて、なぜそんなことが言えるのか
部下は理解に苦しんだ
「どうして・・・?」
これには霞も納得できなかった
二梃木は続ける
「君の言葉を信じようと言うのだ。それに“ディスパ”の編隊を組むのにも時間が必要だしな」
「ディスパ!?」
聞きなれない言葉に霞が問い返す
「ディスパレイドの量産機だ。こいつで編隊を組み、あれにぶつける。
 それまで君が時間を稼いでくれ。
 ただ君とディスパレイドの組み合わせでどの程度までもつかは未知数だがな。
 それができないならこの話はなしだ」
その言葉は真実のように感じられた
本当に受け入れてくれるのか?
霞が言葉を発しようとしたとき、ふとニヤリと笑みがこぼれるのが見えた
この顔を霞は見逃さなかった
「私は・・・あなたに協力しません」
「なんだと!?」
「あなたは・・・また私を利用する気ですね?」
霞はとっさにすべてを察した
霞の能力を利用して恐怖を感じない兵士を作り上げた二梃木
二梃木は再びそれを行おうとしているんだということを
「ならば仕方ない。『陰大無烈破動』船内に入れ!X206」
二梃木が放った命令
その言葉は否応なく霞の精神を支配する
・・・支配する・・・
支配する・・・はずだった
「どうした?なぜ従わない?」
一向に動かないディスパレイドに焦りを示す
「・・・うう・・・わ・・・たし・・・わたしは・・・か・・・」
通信から呻き声がもれる
「わたしは・・・かすみよ!!!」
その言葉に思わずひるむ
「バカな!?・・・『コントロールワード』を振り切っただと!?」
予想外の出来事に思わず声を荒げた二梃木
「わたしは・・・私はあなたには従わない!あの人を殺せと命令したあなたには従わない!」
苦しみながらも凛とした表情を向ける霞
ディスパレイドの手が船から離れ、そのまま弾き飛ばされるように宇宙空間の中に消えて行った

「地上に降りる!?どうして?」
リリスが問いただす
「地上のあれを、あれを私が・・・」
「何を言っているの?あれはあなたにどうこうできる問題じゃないのよ。二梃木さんたちにまかせておけば・・・」
「ダメなんです!」
リリスの言葉を霞が制す
「霞さん?」
霞が泣きそうな顔になりながら訴える
「ダメなんです。私は・・・私はたくさんの人の命をこの手にかけました。何か償いが、償いがしたいんです!」
撃沈させた4隻の船のことだろうか
慌てて否定するリリス
「違うの!それは私が命令したから・・・」
「それだけじゃない!私は・・・私はあの人を・・・」
その場ですべてを悟ったリリス
霞が本当に悔いているのは船を撃墜させたことではない
神威の・・・愛する人の右腕を奪ったこと
「それで許してもらおうとは思っていません。でも・・・」
しばしその場を沈黙が支配する
「・・・でも私にはそれしかできないから!」
決意の表れを示す霞
その顔にリリスはかけるべき言葉を見つけることができなかった
「・・・わかったわ」
さすがのリリスもこれには折れた
だがそれを許したところで状況は何も変わっていない
「だけど今の私では、地上に降下できないわ」
“リトファイズン”によってボロボロにされた船体
これでは大気圏突入は不可能だ
「それじゃ・・・」
あきらめの色が霞を支配する
その色に染まり切るのを阻止したのはリリスだった
「博士に相談しましょう。彼なら大気圏突入用のポッドを持っているかもしれない」
「博士!?」
「ディスパレイドを作り上げた敷神(しきがみ)博士です。確か近くのコスモステーションにいるはずです」

inserted by FC2 system