第十七話“降下前の虐殺”


「第2ブロックも大破!総司令官っ!もう基地を維持できません!」
「かまわん!早くお前も船に移れ!それとラクマン基地に通信しろ!」
基地内は混乱の極みにあった
二梃木の声が基地内に響く
すぐに通信回路が開いた
「総司令官、大丈夫ですか?」
モニタに映し出された男が二梃木の安否を心配する
「大丈夫だ。この基地は捨てる。どちらにせよ、神威にあらかた破壊された後だったんだ。こうなる運命だったのかもしれないな」
二梃木は自嘲気味にそう呟く
「今からそちらに援軍を派遣します」
「いやダメだ」
男の提案を二梃木が制する
「こんなところで“ディスパ”を無駄に消耗する気はない。副司令、今何機出せる?」
「はっ!現在50機ほどが動かせます。追加で100機製造する準備もあります」
その言葉にニヤリとする二梃木
「よし!ひとまずその50機を大至急地上のジブル基地に降ろせ!それと地上の部隊に連絡してもう無駄に戦闘させるのをやめさせろ!
 パイロットがいなくては意味がないからな」
「かしこまりました」
その命令を従順に聞く副司令
その次の瞬間、二梃木の顔色が変化した
悲痛な表情を浮かべながら言葉を綴る
「副司令・・・、もし・・・もし私に何かあったときは君が指揮を取れ」
その言葉に思わず耳を疑う副司令
「なっ、何を言い出すんですか!何かあるなんてそんなこと・・・」
「“ディスパレイド”が素直に逃がしてくれればいいんだが、そうもいくまい。
 降下途中を狙われたらそれでおしまいだ」
言葉を詰まらせる副司令
「唯一チャンスがあるとすれば、ディスパレイドには大気圏突入機構はないことだ。
 飛び道具のないディスパレイド相手なら大気圏まで逃げ切れればなんとかなる」
その言葉を聞き暗い顔をする副司令に、二梃木が精一杯の明るい態度を取った
「心配するな。地上での出来事はなんとしてでも止めなければならない。私もこんなところで終わるつもりはない。
 ・・・地上で再び会おう」
お互い表向きは安堵の表情を浮かべ、通信は途絶した

メザルー基地の外では光が基地を襲っていた
その光は次々と基地の施設を破壊していた
もう基地に抵抗する手段は残されていなかった
光が中心部をえぐり、基地は完全に沈黙した
何もかも機能を失った基地
だが次の瞬間、弾き出されるように宇宙船5隻が基地を出港した
出力を最大にして全力で逃げ切る態勢に入る宇宙船群
それでも最大速度で勝っていても加速で劣っているために、すぐに光に捉えられた
1隻が光の餌食と化す

「何をしているんだ!!!」
宇宙船リリス=クレサード内に神威の怒声が響く
その声に思わずひるむリリス
「・・・マスター」
「何をしているんだと聞いているんだ、リリス!」
その声にははっきりと怒気がこもっていた
「・・・霞さんにメザルー基地を襲わせているのです」
「ディスパレイドに乗ってか?」
間髪いれずに神威は聞き返す
「・・・はい」
その言葉を聞いて盛大にため息を吐く神威
「何を考えているんだ、いったい!?」
その問いにリリスはしばらく黙っていたが、ついに重い口を開く
「マスターが殺されかけたからそれで・・・」
「だからと言って、彼女にそれをやらせる必要性はないだろ!」
放たれる剣幕にひるむリリス
「すぐにやめさせるんだ!」
「・・・わかりました」
そして通信回路が開いた
「『陰大無烈破動』攻撃をやめなさい」
その言葉を聞いて安堵したのか、神威は再び床に倒れた

すでに4隻の宇宙船が宇宙の藻屑と化していた
唯一残った船に、二梃木はいた
運がよかったと言うべきなのか

慣性に従って光を放っていたときの猛スピードのまま、宇宙船の脇を突き進むディスパレイド
その中で素に戻った霞はあることに気がついた
「地上のあれは・・・、なに?」

―――地上

「また2機沈んだぞ!」
「なんなんだ、こいつは!?」
「こんな奴に意味もわからずやられるなんて」
「なんなんだ、この、この・・・この虫型のメカはーーーーー!?」

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