第十五話“不殺の誓いを破るとき”


「なんで殺さないんだ?」
「殺す必要性がどこにある?」
「どうせこいつらは敗残兵だ。捕虜として捕まっても殺されるだけだ。だったら今楽にしてやった方が・・・。
 ただ自分の手を汚したくないだけじゃないのか!?」
「・・・そうかもしれない。だが、僕は己の信念に従って行動するまでだ」

「・・・信念か」
そう呟く神威
「例え誰かを殺すことになっても、霞だけは守る!・・・それが今の俺の信念だ!」
そう叫ぶと“ディスパレイド”の右手の光が広がり、機体全体を覆った
「『光の結界』を発動した!?・・・マスター・・・」
今にも撃沈しそうな船内から、リリスがその姿を見守る
“リトファイズン”のビームは次々とディスパレイドに命中するが、まるで意に介さないように変化がない
すべての攻撃が形成された光の壁によってはじかれていた
「はあああああああ!!!」
神威が叫びながら右手に力を込めると、さらに光が広がって行った
「マスター・・・本当に殺せるの?」
右手が激しく唸る
「いくぞっ!!!」
右手を突き出し、補助ブースターを全開にして猛スピードで突っ込むディスパレイド
凄まじいスピードだ
リトファイズンもビームで応戦するが、そのスピードに弱まる気配はない
むしろどんどん速くなる
そしてそのスピードのまま1機と・・・激突した!
あまりのスピードに、一瞬にしてその場から姿が消える
ディスパレイドが通り過ぎた後には、あの特徴的な長い手足しか残されていない
爆発すらしない
胴体部分のあった空間が削り取られてしまったかのようにすっぽりとなくなってしまったのだ
その驚愕の力を目の当たりにして、他の2機はすぐさま敗走を始めた
だが
「マスター!もう十分です!!!」
揺り戻しの光が再び1機を捉える
背後から機体をえぐる光
機体ごと空間をかっさらう
円状にくりぬかれたリトファイズン
機体の半分のみがそこに浮かんでいた
残り1機
「まさか・・・眠っていた血が目覚めた!?」
覚悟を決めたのか、最後のリトファイズンは逃げるのをやめ果敢に向かっていく
だが光を捉えることができない
変幻自在に宙を舞う光
すべてのビームが空を切る
その動きのまま、光はリトファイズンに激突した

「船の損傷はどの程度だ?」
船に戻った神威はリリスにぶっきらぼうに聞く
だがリリスは答えない
「・・・リリス?」
リリスは涙を流しながら訴える
「なぜです?・・・なぜあそこまでしたんですか?」
その挙動に動揺を隠せない神威
「どうしたんだ、一体?」
「1機を落とした時点で戦いは終わっていたはずです。なのになぜ戦いを続けたんですか?どうして?」
「そ・・・それは・・・」
言葉に詰まる神威
「・・・彼女を守るためだ。彼女だけは失いたくない。例え何を犠牲にしても・・・」
しばらく沈黙が支配した
その重苦しい空気を絶ったのは、コントロールルームの自動扉が開く音だった
「・・・霞か。もう大丈夫なのか?」
扉の向こうに立っていた霞は、ゆっくりと歩を進める
その顔からはあらゆる感情が読み取れなかった
リリスがいち早く霞の右手の違和感に気づいた
「そ、それは・・・聖剣“アズム”!」
「まったく、そんな物騒なもん持ち出してどうしたん・・・」
両手を広げながら、あきれて言葉を口にする神威
だが神威が言い終わる前にゆっくりとその剣が振り上げられた
一瞬空気が凍りついたように冷たくなった

次の瞬間、勢いよく振り下ろされる聖剣
神威にはその動きがはっきりと見えていた
まるでスローモーションを見るかのように剣の軌跡を追うことができた
だが動けない
体が動かない
目の前で起きている光景を疑っていた
そのスローモーションの映像から、剣が神威の右腕へと向かっていくことを確認できた
肘上に置かれた剣
映像が完全に止まって見える
剣をどけようと思えばどけられるはずだ
それでも動かない右腕
動け!右腕よ!
何もできない
全く何もできない
徐々に刃先が進んでいく
ただ見つめていることしかできない

そしてついに、剣は床まで振り下ろされた

「うぐあわあああああああああああーーーーーーー!!!」

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