第十話“リトファイズン”


人々にメシアと担がれた
俺もそれを信じて疑わなかった
そう、あの運命の日まで

あちこちに光が見えた
光っては消え、消えては光った
それは明らかに星の光などではなく、人工的なものだった
宇宙戦闘機は2組にわかれているようであり、片方が片方を押しやっていた
1機、また1機と沈められていった
圧倒的だった
まるで大人が子供の相手をするように圧倒的なのだ
戦闘機間にそれほどまでに能力差があるわけではない
しかし、彼らには恐れ、怯えと言った感情がなかった
恐れがないから敵の砲撃にかまわず突っ込める
怯えがないから通常をはるかに超える速さで機体を動かせる
それだけで戦闘機はまるで違う生き物に見えるほど、その機動性に差が出ていた
押されている側には少なくとも恐怖の色が濃く出ていた
仲間が撃墜されればされるほど、戸惑いを隠せなくなった
しかし、それだけの戦果をあげながら、彼らは歓喜の声すら上げなかった
そして瞬く間に残り1機となった
ついに最後の1機もなすすべなく撃ち落とされ、反抗する勢力はなくなった
しばしの静寂に包まれた
残骸には『セカンド・アース』の軍のマークが見られた

突如現れたレーダーの挙動に1人の兵が気づいた
刹那、ひとつの戦闘機が2つに割れ、爆発を起こした
混乱の渦に包まれている戦闘機群の前に“それ”は姿を現した
“それ”は中心の影から腕と足を伸ばしている
だが“それ”のフォルムは人の形とは明らかに具合が違う
中心の胴体に当たる部分はひし形であり、頭部に相当する部分は見当たらず、手足が細くて異常に長い
両腕の先には砲身がそれぞれ1門ずつ見え、人の両肩に当たる部分にはミサイルが配され、
胸にはパネルのようなものが見え、背中から大型の砲身1門をのぞかせていた
外観からは見えないが、脚部と胴体の付け根付近にもミサイルが内蔵されている
全身に兵器がちりばめられていたのだ

ふいに右腕にある砲身が光った
そうかと思うとまた1機が2つに割れた
すでに2機がくず鉄と化した現状にあって、彼らにはやはり恐怖という言葉は存在しない
それ以上に感情と呼べるものが存在しないようだった
すぐさま編隊を組み直し、反撃に打って出た
右腕の砲身から放たれたビームが1機と交錯する
他の5機は何事もなかったかのように突っ込む
2機から放たれたミサイルが“それ”を捉えた
ミサイルが激突
しかし防ぐために当たった右手にわずかに損傷が見られるだけだ
それを確認する間もなく左腕から薙いだビームが2機を葬り去った
残り3機
1機が無謀にも真正面から突っ込んだ
虚をつかれたのか反応できない
次々とミサイルが着弾する
1発が右脚部に飛んだ
足が吹き飛ぶ
なおも攻撃の手は緩まない
猛スピードのまま胴に突っ込む
貫通した!
爆発し、辺り一面が光に包まれた
だが次の瞬間、爆発の光の中から一際大きなビームが2機を包んだ

一帯は再び静寂に包まれた
その場には腹に穴の開いたロボットが残されているだけだった

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